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横浜地方裁判所 平成元年(ワ)2961号 判決

原告

甲野美枝子

ほか一名

被告

小田利夫

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告甲野美枝子に対し、金一〇六万九〇五八円及び内金九六万九〇五八円に対する昭和六一年一二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自、原告乙山美枝子に対し、金一四〇万六二七六円及び内金一二七万六二七六円に対する昭和六一年一二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告甲野美枝子(以下「原告坂巻」という)に対し、金一七六万九二七一円及び内金一四六万九二七一円に対する昭和六一年一二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自、原告乙山美枝子(以下「原告戸井田」という)に対し、金一九七万六四七〇円及び内金一六七万六四七〇円に対する昭和六一年一二月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1、2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六一年一二月六日午前四時五〇分頃

(二) 場所 横浜市中区蓬莱町三丁目一〇四番地先交差点

(三) 加害車両 普通乗用自動車(タクシー車、横浜五五う八八六一)

(四) 右運転者 被告小田利夫(以下「被告小田」という)

(五) 右保有者 被告サンタクシー株式会社(以下「被告会社」という)

(六) 被害者 原告甲野及び乙山(いずれも加害タクシーの乗客)

(七) 事故態様 被告小田運転の前記加害車両が原告両名を乗客として同乗させ、福富町方面から不老町方面に向かつて進行し、本件事故現場交差点に差しかかつたところ、同交差点の信号が赤色であったにもかかわらず、これを無視して進入したため、進行方向右側の弥生町方面から関内方面に向かつて青信号に従つて進行してきた訴外新妻敬志(以下「新妻」という)運転の普通乗用自動車と出合頭に衝突した。

(八) 原告らの受傷 原告甲野は頸椎捻挫、右頭項部、右肩、右肘、右側胸部挫傷等の傷害を、原告乙山は頸椎捻挫、右前頭部挫傷、右膝部挫傷等の傷害を負つた。

2  責任

被告小田は、信号無視という重大な過失によつて本件事故惹起したものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

また被告会社は、本件加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(原告甲野の損害)

(一) 治療費 二万九六六〇円

内藤クリニツク分

(二) 通院交通費 九四〇円

内藤クリニツクに通院した際の往復タクシー代

(三) 休業損害 一三九万八七七一円

原告甲野は、本件事故当時、横浜市丙区春秋ビル所在の「ぱぶ秋冬」でホステスとして稼働していたが、本件事故による傷害により、昭和六一年一二月八日から昭和六二年八月二五日までの二六一日間のうち、二一三日間休業を余儀なくされた。

右「ぱぶ秋冬」の事故前三か月の平均給与を基礎に損害額を算定すると次のようになる。

(平均給与日額)

五九万一〇〇〇円÷九〇日=六五六七円

(損害額)

六五六七円×二一三日=一三九万八七七一円

(四) 慰謝料 一五〇万円

原告甲野は、昭和六一年一二月六日から昭和六二年八月二五日までの二六三日間の長期にわたり自宅療養及び花園橋病院等の病院で通院治療を余儀なくされたうえ、現在も頭痛、頸痛等の後遺症に苦しんでおり、多大な精神的苦痛を被つたから、慰謝料としては一五〇万円が相当である。

(五) 損害の填補 一四六万〇一〇〇円

原告甲野は、被告会社加入の自賠責保険より六九万一四〇〇円、新妻加入の自賠責保険から七六万八七〇〇円の合計一四六万〇一〇〇円を受領した。

そこで右(一)ないし(四)の合計額から(五)の金額を控除すると、差引損害額は一四六万九二七一円となる。

(六) 弁護士費用 三〇万円

(七) 総損害額 一七六万九二七一円

(原告乙山の損害)

(一) 治療費 二万九六六〇円

内藤クリニツク分

(二) 通院交通費 二万七五二〇円

花園橋病院に通院した際の往復バス代分(三二〇円×八六日)

(三) 休業損害 一四五万二〇九〇円

原告乙山は、事故当時、横浜市丙区所在の特殊浴場「XY」でホステスとして稼働し、一か月平均七〇万円の所得を得ていたが、本件事故により、昭和六一年一二月七日から昭和六二年六月一八日までの一九四日間、休業を余儀無くされた。

しかし同原告の休業損害については、その職業の特殊性を考慮し、昭和六二年度賃金センサス第一巻第一表女子労働者学歴計三四歳の平均賃金を基礎にして算出すると、次のとおりとなる。

(賃金センサスの平均賃金日額)

二七三万二〇〇〇円÷三六五日=七四八五円

(休業損害額)

七四八五円×一九四日=一四五万二〇九〇円

(四) 慰謝料 一二〇万円

原告乙山は、本件事故による傷害により通算一九五日間に渡る通院治療を余儀なくされたうえ、現在も頭痛、頸痛等の後遺症に苦しんでおり、多大な精神的苦痛を被つたから、慰謝料としては一二〇万円が相当である。

(五) 損害の填補 一〇三万二八〇〇円

原告乙山は、被告会社加入の自賠責保険より七九万〇一七五円、新妻加入の自賠責保険から二四万二六二五円の合計一〇三万二八〇〇円を受領した。

そこで右(一)ないし(四)の合計額から(五)の金額を控除すると、差引損害額は一六七万六四七〇円となる。

(六) 弁護士費用 三〇万円

(七) 総損害額 一九七万六四七〇円

4  よつて、被告ら各自に対し、原告甲野は、損害額合計一七六万九二七一円及びこれから弁護士費用を控除した一四六万九二七一円に対する本件事故発生の日である昭和六一年一二月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告乙山は、損害額合計一九七万六四七〇円及びこれから弁護士費用を控除した一六七万六四七〇円に対する右同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実中、損害の填補については認め、その余は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び2(責任)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因3(損害)について判断する。

1  原告らの治療状況

原告甲野美枝子本人尋問の結果により成立が認められる甲第四、第五号証(いずれも原本の存在に争いがない)及び原告乙山美枝子本人尋問の結果により成立が認められる甲第九ないし第一一号証並びに原告甲野美枝子及び同乙山美枝子各本人尋問の結果によれば、本件事故による受傷のため、原告甲野は、昭和六一年一二月六日から同月八日まで自宅療養し、同月九日から昭和六二年八月二五日まで花園橋病院で通院治療(通院実日数九六日)を受け、昭和六一年一二月一〇日内藤クリニツクで検査を受けたこと、原告乙山は、昭和六一年一二月六日から同月八日まで野村外科病院(通院実日数三日)で、同月九日から昭和六二年六月一八日まで花園橋病院(通院実日数八六日)でそれぞれ通院治療を受け、昭和六一年一二月一〇日内藤クリニツクで検査を受けたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  原告甲野の損害

(一)  治療費 二万九六六〇円

原本の存在に争いがなく、原告甲野美枝子本人尋問の結果により成立が認められる甲第六号証及び原告甲野美枝子本人尋問の結果によれば、原告甲野が前記内藤クリニツクに対し、検査費用として二万九六六〇円を支払つたことが認められる。

(二)  通院交通費 九四〇円

原本の存在に争いがなく、原告甲野美枝子本人尋問の結果により成立が認められる甲第七号証及び原告甲野美枝子本人尋問の結果によれば、原告甲野が前記内藤クリニツクへの往復のタクシー代として九四〇円の支払をしたことが認められる。

(三)  休業損害 一三九万八五五八円

原本の存在に争いがなく、原告甲野美枝子本人尋問の結果により成立が認められる甲第八号証及び原告甲野美枝子本人尋問の結果によれば、原告甲野は、本件事故当時「ぱぶ秋冬」でホステスとして稼働し、事故前三か月平均五九万一〇〇〇円の収入を得ていたこと、原告甲野は、本件事故により昭和六一年一二月八日から昭和六二年八月二五日までの二六一日間勤務できなかつたことが認められる。

そこで右期間の休業損害を求めると、一三九万八五五八円となる。

五九万一〇〇〇円÷九〇日=六五六六円(円未満切捨)

六五六六円×二一三=一三九万八五五八円

(四)  慰謝料 一〇〇万円

本件事故の態様、原告甲野の傷害の部位・程度、治療の経過その他諸般の事情を考慮すると、同原告の慰謝料は一〇〇万円とするのが相当である。

(五)  損害の填補

原告甲野が自賠責保険から合計一四六万〇一〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

そこで右(一)ないし(四)の合計額から右支払を受けた金額を控除すると、残損害額は九六万九〇五八円となる。

(六)  弁護士費用 一〇万円

本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに請求しうべき弁護士費用は、一〇万円をもつて相当と認める。

(七)  そうすると原告甲野の総損害額は一〇六万九〇五八円となる。

3  原告乙山の損害

(一)  治療費 二万九六六〇円

原本の存在に争いがなく、原告乙山美枝子本人尋問の結果により成立の認められる甲第一二号証及び原告乙山美枝子本人尋問の結果によれば、原告乙山が前記内藤クリニツクに対し、検査費用として二万九六六〇円を支払つたことが認められる。

(二)  通院交通費 二万七五二〇円

原本の存在に争いがなく、原告乙山美枝子本人尋問の結果により成立の認められる甲第一三号証及び原告乙山美枝子本人尋問の結果によれば、原告乙山が前記花園橋病院へ八六日間通院し、その往復交通費として二万七五二〇円の支払をしたことが認められる。

(三)  休業損害 一四五万一八九六円

原告乙山美枝子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告乙山は本件事故当時、甲乙株式会社経営の特殊浴場でホステスとして稼働し、一か月平均七〇万円の収入を得ていたこと、同原告は本件事故により昭和六一年一二月七日から昭和六二年六月一八日までの一九四日間にわたり休業を余儀なくされたことが認められるが、同原告の職業の特殊性を考慮し、同原告の右期間における休業損害については、昭和六二年度賃金センサス第一巻第一表女子労働者学歴計三四歳の平均賃金(年収二七三万二〇〇〇円)を基礎にして求めることとし、その金額は一四五万一八九六円となる。

二七三万二〇〇〇円÷三六五=七四八四円(円未満切捨)

七四八四円×一九四=一四五万一八九六円

(四)  慰謝料 八〇万円

本件事故の態様、原告乙山の傷害の部位・程度、治療の経過その他諸般の事情を考慮すると、同原告の慰謝料は八〇万円とするのが相当である。

(五)  損害の填補

原告乙山が自賠責保険から合計一〇三万二八〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

そこで右(一)ないし(四)の合計額から右支払を受けた金額を控除すると、残損害額は一二七万六二七六円となる。

(六)  弁護士費用 一三万円

本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに請求しうべき弁護士費用は、一三万円をもつて相当と認める。

(七)  そうすると原告乙山の総損害額は一四〇万六二七六円となる。

三  結論

以上により、原告甲野の本訴請求は、被告らに対し、一〇六万九〇五八円及び弁護士費用を控除した内金九六万九〇五八円に対する本件事故発生の日である昭和六一年一二月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、原告乙山の本訴請求は、被告らに対し、一四〇万六二七六円及び弁護士費用を控除した内金一二七万六二七六円に対する右同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてそれぞれ理由があるから認容し、その余はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田博之)

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